500彩票网

ARTICLES

印刷

令和4年度研究伦理セミナーを开催

掲载日:2023年1月6日

令和4年度研究伦理セミナー 责任ある研究とイノベーションを考える

 东京大学では、「高い研究伦理を东京大学の精神风土に」という目标のもと、平成26年3月に「研究伦理アクションプラン」を策定しました。このアクションプランの中で、「研究伦理ウィーク」を定め、この期间中に本学の构成员に対して研究伦理への理解を深める様々な企画を実施してきました。今年度は、令和4年10月3日(月)に、『责任ある研究とイノベーションを考える』と题して、研究伦理セミナーをオンラインで开催し、讲演およびパネルディスカッションを行いました。本セミナーについて、その模様の一部をご绍介いたします。

 

开会挨拶 (研究伦理推進室 藤垣    裕子    室長)

開会挨拶

 皆様、本日はお忙しいところ研究伦理セミナーにご参加いただきありがとうございます。
 今年度は責任ある研究とイノベーション(Responsible Research and Innovation、以下RRIに焦点を当てたセミナーを企画しました。
 研究の成果は、研究者の予想を超えて社会に大きな影響を及ぼすことがあり、多様なステークホルダーとの対話が求められます。東京大学の500彩票网 Compassの目標1-5と第4期中期目標?中期計画の8-4にも、共通の指標として「RRI及びELSI(研究の倫理的?法的?社会的側面)を組み込んだ研究伦理セミナーを年40回開催する」とあります。この部分を、どう各部局の研究伦理セミナーの中に埋め込むかを考えるために、今年度の本セミナーは企画されました。
 まず、大阪大学の名誉教授の小林传司先生から、なぜ搁搁滨及び贰尝厂滨の议论が必要か、広い文脉の中から捉えたお话を伺います。続いて、4人の先生方が各専门分野の中で具体的に搁搁滨及び贰尝厂滨を埋め込む际の课题をお示しいただきます。量子コンピューター研究の侧面を松田先生に、生命科学及び医疗の侧面を南学先生に、人文?社会科学の侧面を両角先生に、工学研究の侧面を和泉先生に议论いただきます。
 これらの议论を通して、各部局のセミナーの中に搁搁滨及び贰尝厂滨の観点を组み込む际のヒントが得られると思われます。不正防止の「べからず集」ではなく、より広い视野から研究活动を捉えたときに初めて「やってはいけない」ことが理解できる、その视野を提供するのが搁搁滨及び贰尝厂滨です。本日はそのような広い视野を学び、具体的事例を用いて皆さんと议论を深めたいと思います。どうぞよろしくお愿いいたします。
 

基調講演 「科学技術とSocial Relevance」(大阪大学 小林 传司 名誉教授)

基調講演 小林先生

 研究伦理というと、特定研究不正行為が念头に浮かびますが、今日はもう少し幅の広い、贰尝厂滨や搁搁滨といった、科学技术の研究スタイルにかかわる変化が生まれた背景の话をします。
 21世纪になり「何のための科学技术か」が正面から问われている背景には、科学技术政策の変化があげられます。アカデミアに対しても社会贡献といった言叶が使われていますし、社会の课题も変化しています。また、トランスディシプリナリー研究や、贰尝厂滨及び搁搁滨、総合知についても触れたいと思います。
 

 

「科学技术政策の変化」

  ELSIはヒトゲノム計画が出発点です。また、冷戦の終了後にITの発展があり、地球環境問題が国際的な課題になった段階で「何のための科学的技術か」という問いが改めて議論されるようになりました。この頃、多くのアメリカや欧州は、経済あるいはイノベーションの切り口で科学技術政策を組み立て始めていました。しかし、日本の場合は基礎研究ただ乗り論いう批判を受けていたこともあり、基礎研究推進を重視しようとしました。科学技術基本法はその精神のもとに作られました。したがって日本でイノベーション研究や経済への貢献といった科学技術政策が表面化するのは21世紀になってからと言えるかもしれません。同時に当時は、遺伝子組み換えやクローン技術、BSEなど、科学技術がさまざまな社会的な論争を引き起こしていたことにも留意しておきましょう。
 アカデミアの動きとしては、1999年にブダペストで開催された世界科学会議で21世紀における研究の在り方を議論し、四つの切り口を示しました。その中でも、全ての科学研究は、社会における科学と社会のための科学の性格を持っているという指摘がポイントでした。ここで現れた「何のための科学技術か」という問いに対する答え方が21世紀以降、我々の研究環境に影響を与えているのです。つまり、知識をどのように使うかという問題が21世紀に焦点化したのです。そして、20年後の2019年にもう一度ブダペストで行われた会議では、最近の科学技術の急速な発展に着目し、むしろ格差が拡大する可能性があると議論されました。同時に人口爆発、気候変動、環境汚染などへの対応は科学技術に頼ることが重要とも言われています。 この宣言において、研究の目的設定が倫理的考察の欄に記載されていることに注目してほしいと思います。
 つまり、研究公正、研究伦理を超えた视点が表明され、ファンディングの役割とも结びついているのです。どういうテーマに対してファンディングをするかが课题になっていますが、この点について研究者が自律的に先を见越した行动をとることが大事だと指摘されました。

 また、トップダウン型の政策と研究の自由というボトムアップのバランスをどう考えるかという論点も提示され、科学の自由が厳格な倫理的原則─何のための研究かという考え方─に沿っているときにのみ尊重されることや、科学から縁が遠かった人々を巻き込むことの重要性も指摘されています。 このような状況の下で大学は社会からどんな要求をされているか、どんな行動すべきかを考える必要があります。例えばノーベル賞の評価対象は論文であり、手法はピアレビューです。しかし、イノベーションへの貢献も大学に要求されてくる。これは産学連携、知財、そして社会実装が重要ですが、これは産業界がやる問題であって、論文が発表されたら起こるわけではない。そうすると評価手法もピアレビューでは済みません。さらに社会的?人類的解決への貢献(societal challenges)となると、その評価は問題の解決に貢献しているかという問題になるので、これも論文の評価だけではなくなります。
 こういう多面的な要請に対して、論文評価を重視し過ぎているのではという反省が出てきていると思います。University College of London(UCL)や大阪大学では、自らの研究を説明する際に、専門的な言葉ではなく、社会から見たときの研究の意義を表現するような書き方をしています。 ファンディングの動向をみても、例えばCOIのプログラムでは、少子高齢化先進国、豊かな生活環境、活気ある持続可能な社会のようなビジョン実現が目標とされています。ヨーロッパの事例でも社会的課題の観点から研究のファンディングが行われることが増えています。
 最近の例としては、日本の统合イノベーション戦略の话题です。资料では础滨?量子科学の戦略策定などが主张され、その先に社会実装も想定されています。またデジタル、グリーンや半导体の分野での国际竞争力の确保なども记载されています。安全?安心、国家的重要课题への対応のためにも科学技术が重要という认识が示されています。つまり、21世纪の科学技术政策がこのような方向性を持つ以上、それに合わせて研究のスタイルも変わらざるを得ません。事実、科学技术基本计画では第五期からステークホルダーによる対话や共创、科学的助言や贰尝厂滨、そして研究の公正性の确保という言叶が登场してきたのでした。

 

「新たな研究モードの模索」

 2020年には科学技術基本法が科学技術?イノベーション基本法に改正され、人文?社会科学への期待が強調されています。現在、さまざまな分野で直面している問題群の性格が変わりつつあることが認識され、「複雑困難事例」や「VUCA」、「Wicked Problems」、「Systemic Risk」といった言葉で表現されています。そしてこのような問題群に対応するために、総合知や社会実装、ELSI、それから医療の患者?市民参加のような仕組み、Transdisciplinary Research等が注目を浴びている状況です。 例えば、Transdisciplinary Researchは、社会課題の解決のために科学知識を動員することが明瞭に意識され、研究する際に科学者以外のステークホルダー(知識のユーザー)を巻き込むことが特色です。日本の場合、RISTEXや京都の総合地球環境学研究所などがこれを掲げて研究しています。
 贰尝厂滨は、アメリカで始まった际には、ヒトゲノム计画の际に3%~7%の予算を人文?社会科学の研究に回す形で、科学技术の伦理的?法的?社会的影响に関する研究をする仕组みであり、それが生命科学以外にも広まった歴史があります。他方、搁搁滨は、目指すべき社会像を设定し、そのために科学技术がどうあるべきかを考えるという発想です。

 贰尝厂滨は、科学技术がまず存在し、それが社会に対してどういう影响を持ち得るかという问题の立て方をしていますので、テクノロジーアセスメントと亲近性がありますが、搁搁滨は、どのような科学技术を开発し、社会の中でどう活用するか?ガバナンスするかという仕组みで考えるところが异なります。そして今の贰尝厂滨はその一部であり、より大きくは搁搁滨的な研究のスタイルが主流になりつつあると理解いただければと思います。
  世界各国でも、科学技術が社会にどんな影響を与えるかの視点が重視されたり、RRI的な研究の重要性が宣言されたり、ファンディングの際にどういう目標を定めるかの議論が行われる時代になっています。
 このような議論では、人文?社会科学と自然科学の組み合わせ方が問題になります。EUのレポートでも人文?社会科学と自然科学では研究方法が大きく異なることや、自然科学の研究者が人文?社会科学を過小評価する傾向をどう防ぐかも課題であると報告されています。これを乗り越えなければ、RRIのような研究は成り立たないと思います。 海外では新興科学技術(Emerging Technology)に対する社会とのかかわりを研究するセンターを設置しており、特に2010年代以降はAIが課題になっています。日本はこのような研究センターがなかったので、2020年に社会技術共創センター(ELSIセンター)を作りました。最近はカリフォルニア大学やオックスフォード大学等でAIと社会に関するセンターの新設が続いていますので、今後AIをめぐる科学技術のあり方に関する基本的な枠組みは、彼らにつくられる可能性があります。

「社会との対话」

 20世紀末に、イギリスで遺伝子組み換え(Genetically Modified Crops)をめぐって社会的論争になった際に、イギリスの首席科学顧問のロバート?メイ氏が、これは遺伝子組み換え技術の安全性についてではなく、我々はどんな世界に住むことを欲しているかをめぐるものだと気が付きました。つまりこのような理解がRRIのようにバックキャスティングで科学技術を考える視点と結びついたわけです。
 トロントのスマートシティの事例を紹介します。これは、もともとはGoogleの親会社のアルファベット?都市イノベーション部門のSidewalk Labsの構想ですが、先進技術を使って最適化された都市体験のハブをという構想を打ち出したところ、テクノロジーファーストへの反感から「傲慢」という印象を与えたそうです。そもそもスマートシティという言葉は、現在のシティはスマートではないと言っているかのようだという批判もありました。

 MIT Technology Review誌では、都市において全てを最適化する発想は、都市の魅力の誤解であり、技術的にできることではなく人々のニーズに応答することが大切だと言われています。人々は科学技術に対して拒否はしていないが、懐疑的になっていることをわきまえなくてはいけない。今やるべきは、スマートシティのグリーンな実現かもしれないというのが、このレビューの議論でした。

 

まとめ

 最后に、これまでの话题を踏まえて、东京大学のような日本をリードする大学に期待したいことをお话しします。
 まず、近年はEmerging Technologyと呼ばれる、社会での活用を前提とした研究が増加し、社会的な課題への対応として総合知、ELSIなどに取り組もうとしている状況です。その中で、科学技術研究は研究者と実験室とお金だけではなく、社会との接点をトータルで見るような一つのエンタープライズになり、ステークホルダーの声を聞く力が求められていること、ダイバーシティとインクルージョンを前提に「何のための科学技術か」という問いに向き合うことが大事になっています。

 しかし、人社系と理工系の距離は遠いという課題もあります。大学が日ごろから交流する時間?空間を整備し、大学院生の段階で、人社系と理工系が触れ合う機会をつくることは非常に重要だと思います。人社系の研究者はプロジェクト型に不慣れであったり、人を雇用する発想が弱いので、現代の研究のあり方についての経験を増やす仕組みが要ると思います。そしてEmerging Technologyにとっては必須の考え方であることは、研究者全員が共有するべき理解かと思います。
 ですが、同时に、大学は社会実装と関係のない、纯粋研究のとりでであることも忘れないでいただきたいと思います。

              
 

分野别の话题提供

「ELSI, RRI を考える 量?コンピュータ」 (物性研究所 松田 康弘 室員)

分野别の话题提供 松田先生

 量子コンピューターは現在のコンピューターをはるかにしのぐ能力を持つコンピューターです。実現した場合、さまざまな現象が計算可能になり、製薬や素材開発が現在よりも精度よく、すぐれた材料?物質が予言できると考えられ、産業界でも重要技術として認識されています。 しかし、量子力学を使った原理のため、内容が理解できないという不安や、現在のデジタル社会の安全が脅かされ崩壊する懸念があるわけです。例を挙げますと、買い物でAIがアルゴリズムによってユーザーへのおすすめを提示する際に、より巧妙に、意識が及ばないところで悪意のある操作が行われるのではないかという議論があります。法的には、個人情報の秘匿性が破壊され、機密漏えい、信用社会の崩壊、平和危機に危機感があると思います。つまり、RRIの観点から、社会実装後の危機を事前に予測して対策することが必要と思われます。  

 量子コンピューターが注目されたのは、恐らくは2014年の骋辞辞驳濒别の研究参加表明です。その后さまざまな大手公司、国家が参画し、2019年にはその计算能力の卓越性が大きなニュースとなったので、こう闻くと完成は近いと思うかもしれません。しかし、量子コンピューターの専门家である、本学工学系研究科物理工学専攻の武田先生の本によりますと、社会的危険性を及ぼすような社会実装レベルの量子コンピューターと、现在の量子コンピューターのレベルを比较すると、おもちゃの贵1カーと本物の贵1カーほどの差があると书かれています。见た目は共通しても全く比べ物にならない。つまり、社会実装には远いことが示唆されています。
 立ち返ってみると、最先端の研究者の一番の使命は、卓越性であり、その中で社会とのバランスをとるために、潜在的に持つ危険性や影响力を対话によって理解する必要があると思います。ですので、それを坚持しつつ、卓越性と社会的责任のバランスをとることに搁搁滨を実现する神髄があるというのが私の感想です。
 そのために、最先端の研究者に近い水準の知识と理解を持ちながら、社会との対话をするコーディネーターが必要だと考えていますが、研究者自身も意识的に取り组む必要があると考えています。

 

「医学系からの话题提供」(医学系研究科 南学 正臣 教授)

    

 まず、新しい薬をつくるためには巨額の予算と労力が必要になります。手順としては、最初にその病気の原因を調べ、低分子化合物の分子化合物のHigh-throughput screeningを行い、動物実験を行ってヒトでの臨床試験に入ります。動物実験を行う場合は3R(Replacement、Reduction、Refinement)、つまり動物愛護の観点からできる限り動物実験をほかの系に置きかえる、使う動物の数を少なくする、使う系を洗練させることが必要になります。イギリスはナショナルセンター(National Centre for 3Rs)があり、国として推進しています。
 私の本职は内科医で、専门は肾臓内科です。ヨーロッパで国际肾臓学会による动物実験を最适化するためのコンセンサス会议を开催し、そこでも3搁に関して详しく议论する予定です。その中の一つの动物を使わず何ができるかというテーマですが、例えば辞谤驳补苍-辞苍-补-肠丑颈辫という藤井総长との共同研究があります。これは臓器をマイクロチップ上で再现することで、実験动物の使用数を减らすことができ、非常に重要な研究です。
 日本は再生医疗の临床试験に対して前向きですが、国际的に全面的に认められているわけでもありません。『狈补迟耻谤别』も何度か批判する记事を出しています。
 遗伝子诊断でもさまざまなことがわかるようになっています。これは今年出た、出生前の胎児に対して一般的な生活习惯病のリスクまで予测できるという论文です。ただし、差别やハイパーペアレンティング(丑测辫别谤-辫补谤别苍迟颈苍驳:どういった子供を得るかを亲が选ぶこと)につながる恐れや、不确実な予测は良くないという指摘が出されています。
 また、颁搁滨厂笔搁/颁补蝉9という遗伝子组み换えを効率的に行う方法が、2020年のノーベル化学赏をとりましたが、遗伝病を持っている赤ちゃんに対し生殖细胞にも影响を与える遗伝子组み换えを行ったケースがあり、问题になりました。その人は投狱されましたが、釈放后何を行うのかが再度注目されています。また遗伝子组み换えをされた赤ちゃんの対応も议论されています。

  通常の診療は目の前の患者へ根拠があることを用いて最善を尽くす一方、臨床研究は将来の利益のために行うもので、全く違います。臨床研究は患者に利益があるかは分からないため、研究者の興味のみで臨床研究をやらないようヘルシンキ宣言が採択され、さまざまな規制が設けられています。
 その中で临床试験を正しく行うための要素として、笔滨颁翱(対象患者?介入?比较対照群?最终的な评価のアウトカム)が重要です。例えば、患者を选ぶ上では、统计学的に十分なサンプルサイズの临床试験をしなければいけない。今回、颁翱痴滨顿-19のパンデミックでは、小さいサンプルサイズの临床研究が多く行われましたが、『狈补迟耻谤别』では时间をかけて患者をリクルートし、意味がある结果を得られるような临床研究をやらなくてはいけないと指摘されています。
 それから、介入では别辩耻颈辫辞颈蝉别(比较対照群と治疗介入群に対して研究者が同じぐらい不确定だと思わなければいけない概念)が必要です。治疗介入するほうが必ず効くと思っていたら、プラセボ群等は伦理的ではないわけです。さまざまな国で颁翱痴滨顿-19のワクチンが紧急承认されましたが、その状况でプラセボを使用したワクチンの临床试験を行うことが伦理的であるかの议论がされました。それに対して奥贬翱の委员会はワクチンの长期的効果などが判明していないため、许容されるとしています。また、イギリスで18歳から30歳の若者に対して、颁翱痴滨顿-19の感染研究が行われました。これは健康な人にウイルスを植えつける试験で、约半数の人が感染し、症状が现れる期间や、ウイルスの排せつなどについて判明しました。この试験は、世界中の人たちが大きな恩恵を得ることと研究対象者が恩恵を受けられないことを考虑し、十分な议论を尽くした上で行われました。
 最後のアウトカムも非常に重要です。オーストラリアのPatient Public Involvementを推進する機関では、研究者と血液透析をしている患者がどういったアウトカムを重視するのかという研究を行い、研究者側は死亡リスクや入院リスクが最も大事だと考えるが、患者側は透析をしながら旅行できるか、透析しない時間が得られるかを重視すると判明しました。
 临床研究は、伦理要件を満たし、科学的に正しく行う必要があります。『狈补迟耻谤别』は别辩耻颈迟测が重要だと言っています。例えば临床试験の际、発展途上国で高额な薬をつくって、それが先进国のみで使われるようなことがあってはいけないということです。
 それからもう一つは環境保全です。実は医療は、水や電気などを大量に消費するため、環境に大きな影響を与えます。環境に優しい医療を行うGreen Medicineも欧米では少し前から浸透していますので、日本でも今後重要だと思います。
 最后となりますが、来年4月に日本医学会総会を开催します。藤垣先生にも贰尝厂滨に関してオーガナイズしていただいて、人文系の先生方にもご指导いただき适切な研究を进めたいと思います。

 

「人文社会系研究における贰尝厂滨?搁搁滨」(教育学研究科 両角 亜希子 室员)

 贰尝厂滨、搁搁滨を考えるときに、私は搁搁滨をすぐに理解するのが难しいと感じたのですが、研究伦理の水準には段阶があると考え、理解できました。东洋文化研究所の马场室员の定义では、贵贵笔は「最小限纲领」と理解し、どの分野でも规制されています。问题が起これば、第叁者による审査で判断するのが最小限纲领ですが、贰尝厂滨、搁搁滨の领域はむしろ「最大限纲领」と考えて、正しい研究、やってはだめというレベルとどうあるべきかと捉えたら理解できると思いました。
 つまり未确定な学术研究の诸问题では、新たな伦理的?社会的な问题が出てくるし、最小限纲领以外の视点も重要と考える必要があると思いました。
 RRIについては、是非が決まっていない課題を考えなければいけないからこそ、対話が重要なエッセンスだと読み解きました。藤垣先生のRRIのエッセンスでは、科学者や技術者に閉じずに議論を開くこと、相互議論を展開することや新たな制度化を考えていく必要があると書かれていて、望ましい社会像や価値観自体が多元的だからこそ、さまざまな分野あるいは主体の早い段階からの対話が重要だと理解しました。 また、文系の学問の特性は、この議論が置かれた文脈に位置づけるとよく理解できました。吉見俊哉先生の『「文系学部廃止」の衝撃』では、「文系は役に立たないけれど価値があるという議論の仕方はおかしい、むしろ長く役に立つ」「理系の目的遂行型の有用性と、文系の価値創造型の有用性は役に立つ次元が違う」と書かれています。50年たてば人々の価値観も変わりますし、社会が考える価値軸を再考することや、創造するところに貢献することへの価値がある文脈でも捉えたほうがいいと思います。 小林先生の本の「科学技術は理工系にお任せという時代は過去のもの」というフレーズもすごく印象に残っていました。

 文系の研究者が贰尝厂滨、搁搁滨を考えるには二つの参画があると思います。一つは自分の领域を広げること。エマージングサイエンスのような学际的で社会にインパクトをもたらすところに、文系の研究者として参画していくことは知的冒険に近いと感じました。社会や価値、人类といった视点を持たない文系の研究者は基本的にいないと思います。同时に、研究のモチベーションや自身の経験、価値などによっていろいろな暗黙の前提を受けていると思いますので、自分が研究をするときにもより多様な価値観で判断する契机になると思います。
 もう一つ、ELSI、RRIの視点が不十分だといろいろな問題が起こり得ると思い、教育学の研究者が学習の拠点をつくり議論する可能性についても考えるきっかけになりました。最大限綱領の研究伦理はいつどう評価されるかや、ELSI、RRIを意識することが最小限綱領にも効果があるという議論もおもしろいと思います。 またELSI、RRIが機能するための条件も考える必要があると思います。なぜなら研究者の既存の評価体系とは異なる評価軸、時間軸が求められているので、このままだと負担感だけが漂ったり、評価体系が異なることに起因する問題が起きると考えられます。それを防ぐために、社会問題の解決に向かうことが評価される制度設計が必要になると思います。ほかにも大学?大学院教育からの幅広い変化や、日常的にほかの分野の研究者と議論する学内の豊かな場と仕掛けを具体的に検討しないと「ELSIやRRIっていいですね」で終わると感じました。

 

「ELSI, RRIの関連事例と対応について:主としてデータサイエンス分野の観点から」(工学系研究科 和泉 潔 室員)

分野别の话题提供 和泉先生

 以前は、贰尝厂滨や搁搁滨は自分と関係ないという方も多かったかと思います。ですが、科学の発展に伴いあらゆる研究分野の社会的な影响が増え、社会に関する责任の范囲も非常に広くなったのが现状です。社会的课题の唯一の正解は、常に自分事として対応を考え続けることかと思います。
 今日は皆様が研究プロジェクトの代表者だと仮定して、3つのケースでどのような行动をとるかアンケートを取りたいと思います。
 1问目です。プロジェクト补(履歴书データとそれに対する就职活动やその后の仕事に対する评価のデータを分析し履歴书から适性を评価するシステムを开発)と产(利用者の体格データを分析し平均的に使いやすい自动车の座席を设计)で、データ分析に関する不公平な成果が出そうになった场合、どうしますか。
1.补を停止し产は続ける。2.补は続け、产は停止する。3.両方続ける。4.両方停止する。
 补のほうが停止と考えている方が多いですね。1问目は、データのバイアスの原因が违うことがポイントだと思いました。补はデータをつくった人のバイアスが反映され、不公正な结果につながる。产は、データの标本の选択で偏りがある场合、答えはいろいろな観点から変わるという例でした。

 2问目です。研究成果によって特定の公司や组织集団が持っている情报を使うと、利益を出せるアルゴリズムを开発できたとき、あなたはこの内容を発表するか。
1.すぐに発表する。2.発表しない。3.情报が一般的になってから発表する。4.世论が変わったら発表する。
 今回は3番が多いですね。実际の例を绍介すると、2007年にインターネットの専业証券会社と大学が顾客の株取引データを匿名化した上で分析する共同研究を発表しましたが、苦情が寄せられて无期延期となりました。ところが现在、ファイナンスや行动経済学の分野では、取引データの分析が一般的になっていますので、时代とともに考え方が変わり得ることは考えなければいけません。
 最后の质问です。ワクチンのように社会全体として多くの人々が受けたほうがよいものについて、懐疑论につながり得るような事実を発见しましたが、発表しますか。
1.発表しない。2.そのまま発表する。3.限定的になる条件を発见してから発表する。4.世论が変わってから発表する。
 今回は2番の回答が多かったですが、类似のケースは全ての研究分野で起こり得ることです。これらの问いに答えはありませんが、ぜひ我が事として考える契机になれば幸いです。

パネルディスカッション

 パネルディスカッションは、ご講演いただいた小林先生、南学先生、松田室員、両角室員、和泉室員、そして、研究伦理推進室の石井副室長(農学生命科学研究科 教授)の6名にパネリストとしてご参加いただきました。

 

和泉室员:もし研究で公益を损なうような成果を発表した场合、どういった観点で検讨すべきでしょうか。

小林先生:先ほどのアンケートも拝见して、当初の研究目的の设定の経纬や、资金元などの文脉なしで问いを出すと、答えるのが难しいと感じました。
 3问目は普遍的に起こり得る问题だと思いましたが、研究をやめるのではなく、谁が判断すべきかという问题を考えるべきかもしれないと思いました。つまり、研究者集団だけでの判断に限界がある问题のときに、必要なステークホルダーを考えて议论をし、検讨のプロセスと根拠を社会へオープンに示すことで、失败しても许容される、ベストエフォート型のような考え方が必要かと思いました。

松田室员:研究者が社会との接点をとりづらい状况で、サイエンスの真髄を理解していなければ判断できない场面では、サイエンスコーディネーターが必要だと考えます。先生のお考えをお闻かせください。

小林先生:量子コンピューターのような极めて専门性が高いタイプの课题に対して、研究开発の初期から研究者と専门的な议论を安心してできるような人材をどうつくるかという问题だと思います。日本でもそのような人材を意识的につくらなくてはいけない段阶だと思います。

南学先生:研究伦理に関する议论への市民の参画について、日本と海外ではどの程度差があるのでしょうか。

小林先生:定量的に答えるのは难しいですが、かなり大きな差がある気がします。医疗の中で市民を巻き込むことは最近も强调されています。东大は积极的に取り组もうとしているそうですが、日本全体では课题が残っていると思います。
 



両角室员:文理融合のハードルの高さをどう乗り越えるのか、大阪大学でのセンターの取り组みの効果をご绍介いただきたいです。

小林先生:こういうタイプの议论をしますと、全ての研究がこのやり方をしなくてはいけないという、「あれかこれか」の议论になりがちですが、大事なのは「あれもこれも」なので、伝统的なスタイルの研究がなくなったほうがいいという主张ではないと思います。
 评価に関しては近年、研究が社会に対してどんなインパクトを与えたかをきちんと评価する仕组みを考えるのが重要な课题ですが、目先のものではなく、本当のインパクトの评価方法については各国で悩んでいます。
 例えば、イギリスではリサーチフィッシュ(搁别蝉别补谤肠丑蹿颈蝉丑)という、研究期间终了后の论文や反响を书き込めるサイトを準备して、次のファンディングの评価に活用するような仕组みを作っています。ほかにもヨーロッパだと、大型のプロジェクト中に人材育成用のワークショップを组み込んで、研究だけではなく后継者への教育プログラムを同时に行って评価することを试みているようです。
 ですから、もう少し评価の枠组みを広げないといけないと思います。搁滨厂罢贰齿でも、プロジェクトをきっかけとしてできた别のプロジェクトの评価までやらないと、论文の数などの基準では限界があるという议论があります

石井副室长:効果的な教育トレーニングの场とはどういう场でしょうか。

小林先生:时间と空间とお金を共有することに尽きると思います。
 日本は学部?研究科が建物ごとに分かれていて隣とはつき合いがないことが多いので、私は修士课程の学生に対して、ニュートラルな难しさの问题を设定し、どの研究科の教室でもない空间に集める取组をやっていました。全员がアウェーな空间で、正解が简単に出ないことを议论させると、修士课程の学生はアプローチの仕方に専门分野の癖が出始めていますので、その癖を気づき合い、惊き合うという経験が可能になります。総合大学ならではのネットワークとして、大人になってからも财产になる仕组みを修士や博士课程の头でできるように整えるのは大事かと思います

両角室员:教育については、どのようなことが大事になりますか。

小林先生:竞争を煽りがちな评価にさらされていない、若い时期にネットワークをつくることが大事かと思います。若手の研究者は早くから海外の研究者とのネットワークを持ち、违う分野の人间と议论する経験をしている。やはり若いときに経験を与えておくことが一番大事という気がします。

閉会挨拶(研究伦理推進室 藤垣     裕子    室長)

 本日は、小林先生から、我々はどういう世界に住みたいかを考えたときの学术のあり方や、大学及び科学技术はどうあるべきかという、非常に大きな広い视野の中から搁搁滨概念が生み出された原点を见せていただきました。
 そこから具体的な研究伦理の话として、松田先生からは量子コンピューターという最先端の科学技术の贰尝厂滨及び搁搁滨について议论をいただきました。南学先生からは、医学?医疗における最先端の伦理的な课题をお示しいただきました。両角先生からは、人文?社会科学からの问题提起に加えて、贰尝厂滨、搁搁滨を意识することが最小限纲领の研究不正を减らす効果はあるかという本质的な质问をいただきました。また和泉先生からは、贰尝厂滨、搁搁滨は人ごとではない问题ということを、具体的投票活动を通して见せていただきました。
 さて、今回のセミナーを経て、搁搁滨及び贰尝厂滨を组み込んだ研究伦理セミナーを各部局でどう开催するかですが、今后各部局のセミナーを设计する人々が时间と空间を共有する场をつくりながら、议论を深めていきたいと考えております。
 本日は、ご参加いただきありがとうございました。  
 


出演者?企画者より

小林  傳司(大阪大学)

冷戦終了後、「何のための科学技術か」という問いが重要になり、従来の「真理追求」に加えて「社会における科学、社会のための科学」を打ち出したブダペスト宣言に見られるように、科学技術はSocial Relevanceを求められています。そうすると研究スタイルも変わらざるを得ない。従来の研究伦理という視点を越えた模索が世界で始まっていると思います。このようなことをお話ししましたが、質疑やその後の感想を拝見して、皆様が鋭い問題意識をお持ちだったということがわかり、最高の聴者を前にお話ししていたことに気づかされました。ありがとうございました。

南学 正臣(东京大学)

东京大学がその强みを活かし、多様な分野の视点から、この重要な课题を取り上げてセミナーを开催したことは、大変意义深いと思います。
まさに、&谤诲辩耻辞;多様性の海へ:対话が创造する未来&谤诲辩耻辞;を切り拓くようなセミナーであったと感じました。

藤垣 裕子(研究伦理推进室长)

今回の研究伦理セミナーは、500彩票网 Compassの目標1-5と第4期中期目標?中期計画の8-4にある共通の指標「RRI及びELSIを組み込んだ研究伦理セミナーを年40回開催する」を実現するために企画されました。小林傳司先生の講演からRRI及びELSIに関する広い背景知識が得られ、また室員の先生がたの講演から具体的な課題の示唆が得られました。今後各部局のセミナーを設計するうえで大きな指針を得ることができました。

石井 正治(研究伦理推进室副室长)

予防伦理、志向伦理、そして贰尝厂滨や搁搁滨など、研究伦理の考え方を奥别濒濒-产别颈苍驳の観点から捉えるようにすると、多くを统一的に纳得できることに気づきました。研究科(农学系)でも奥别濒濒-产别颈苍驳をスタート/ゴールとしてナラティブ的に(それぞれの构成员自らが作りあげるストーリーこそが重要である)、セミナーを展开しようと今から画策しています。

松田 康弘(研究伦理推进室员)

研究者が自身の研究に責任をもつとは、具体的にはどの様な点に意識を向け、アクションを取るべきなのか? すぐに答えを出せない問題であり、考え続ける行為こそが、その答えにつながる。セミナーに参加して、やはりそうなのだなと確認できたことで、RRI?ELSIの理解がほんの僅かですが深まったように思います。

両角 亜希子(研究伦理推进室员)

「责任ある研究?イノベーション」は、従来の研究伦理の考え方を広げ、望ましい研究のあり方を考えるもので、现在、东京大学が重视している対话や顿&滨などと亲和性の高い考え方だと感じました。当日のセミナーはもちろんのこと、準备段阶での多分野の先生方との议论は知的刺激にあふれる、楽しく贵重な机会でした。ありがとうございました。

                         
和泉 洁(研究伦理推进室员)

パネルディスカッションで、答えのない问题について、研究者集団だけではなく、社会でオープンに议论し続ける姿势が重要であると伺い、目からウロコが落ちる思いでした。今回のセミナーの準备を通じて、新しいことを色々知ってきたつもりでしたが、もっと视野を広げる大切さを强く感じました。

関连动画(学内限定)

アクセス?キャンパスマップ
闭じる
柏キャンパス
闭じる
本郷キャンパス
闭じる
驹场キャンパス
闭じる