希有なゲルの医疗展开を目指して Entrepreneurs 18

このシリーズでは、东京大学の起业支援プログラムや学术成果を活用する起业家たちを绍介していきます。东京大学は日本のイノベーションエコシステムの拡大を担っています。

ジェリクル株式会社(东京都文京区)は、东京大学大学院工学系研究科が开発した「テトラゲル」の医疗への応用を目指すバイオベンチャーです。テトラゲルとは、2つの异なるポリマー(高分子)を混ぜ合わせて、设计した通りの均一な网目构造に形成したものであり、その物理特性が解明されている世界初のゲルです。水分の含有率が高く、生体との适合性が高いほか、あらゆる物性を自在に制御できるため、再生医疗向けの応用に期待がかかっています。2018年の创业以来、製薬会社と协业を进める一方、东京大学医学部附属病院の医师とも共同研究を実施し、ベンチャーキャピタル等外部からの资金调达をせずに実绩を积んできました。今后は、テトラゲルの薬事承认も视野に入ってきます。
同社を率いるのは増井公祐?代表取缔役颁贰翱です。「东京大学の技术を使って起业」と闻くと、手坚い起业との印象を持つ方もあると思いますが、増井さんは「波澜万丈な人生」を歩み、「过去をリセットすること」を迫られてきたからこそ今がある、と语ります。波澜に満ちた道のりを歩む中で、変わらなかったのは「ビジネスを追求して、研究结果を社会実装したい」との思いでした。今后は、欧州などの世界市场を见据え、事业を拡大していく予定です。
七転八倒の道のりを粮に
増井さんは、金沢大学薬学部を卒业后、东京大学大学院工学系研究科でバイオエンジニアリング専攻に进みました。薬学部から工学部に移るのは珍しいケースですが、「基础研究より、研究结果を世の中に出したい。それなら成果が社会実装されやすい工学分野がよい」と考えた结果でした。选んだのは、后に共同创业者となる酒井崇匡教授の研究室。当时、酒井先生はテトラゲルの生成に成功したばかりで、研究室ではその基础研究が行われていました。
2011年に同研究科を修了。その后に就职した会社は1年で辞め、新兴の滨罢公司に転职しました。4年半の在职期间で、事业戦略の立案や新规事业の立ち上げなどを行い、同社のナンバー2まで昇り詰めたそうです。その后には、知人と一绪に滨罢ベンチャーを设立しましたが、人间関係の悪化により、起业后1年弱で会社を追われる羽目に。伤心の増井さんは、1年半をかけて世界40カ国をめぐる旅に出ました。旅路では、「起业するなら、ディープテック(革新的な技术や着しい进歩を促す科学的発见に基づく事业)の分野でやりたい」という思いが、ふつふつと涌いてきたそうです。
帰国后にまず连络を取ったのは、酒井先生でした。すると、「テトラゲルの技术はちょうど商业化の段阶に到达している」と、酒井先生から突然の相谈がありました。「正直に言うと、最初は、自分がゲルのビジネスをする気持ちはありませんでした。でも、先生とディスカッションを重ねるうちに『テトラゲルの社会実装は自分にしかできない』と思い及ぶようになりました」
东大の医学ネットワークを使い、医者のニーズを知る

ゲルの代表的なものはゼリー、こんにゃくです。高分子が互いに络みあって、网目状の构造を作ります。その构造が均一でないことや、构造や物性の物理的な説明ができないことが、医疗面での活用が进まない原因でした。一方、テトラゲルの构造は均一であり、物理特性が明らかになっていることから、ゲルが固まり始める时间や固さなどを自在に调整することができます。すでに株式会社メディコスヒラタ(大阪市西区)と协业し、血液に触れると固まる止血材を开発。2025年の薬事承认を目指しています。そのほか、カイゲンファーマ株式会社(大阪市中央区)とも、テトラゲルの特定医疗分野への応用に向けた独占交渉に合意しています。
増井さんはさらに、「现场のニーズを捉え、患者の生活の质(蚕翱尝:クオリティ?オブ?ライフ)を向上させることこそが重要」と、东大病院の医师らにヒアリングを行い、共同研究につなげてきました。现在は约20名の医师が、ジェリクル社のアドバイザーとして名を连ねるまでになっています。医疗现场とのネットワークを构筑できたのは、酒井先生と共同で研究室を主宰する、东大大学院工学系研究科?医学系研究科の郑雄一教授の存在があったからです。自然と、テトラゲルの応用先も医学系が中心となりました。
现在はテトラゲルを応用し、癒着防止材、下肢静脉瘤、大动脉解离の治疗に利用する机器のほか、ゲルを膝に注射するだけで软骨の摩耗を防ぐデバイスなどを开発中です。今は困难な再生医疗への応用も目指します。
资金调达をせず、世界を目指す
ジェリクル社の特徴は、外部からの资金调达や助成金なしで、会社を运営している点です。「资金调达の规模が米国の10分の1や、100分の1しかない日本の环境では、株式を上场しても、製品を世の中に送り出す前に事业が行き詰まりかねません。小さく始めていくことが重要なのです」。実际にジェリクル社は、増井さんと酒井先生、技术开発をする鎌田宏幸?颁罢翱の3人だけの体制で事业を进めています。鎌田さんは酒井?郑研究室での后辈。公司の研究所に勤务していましたが、「新しいことがしたい」と、自身の経験がすぐに活かせるジェリクル社に2020年に参加しました。
今后目指すのは、世界展开です。すでにドイツに出张し、「海外の公司にとっても弊社のゲルがユニークなものだと确认できたので、海外に攻めていきたい」と、手応えを感じている増井さん。2023年には英语が堪能なスタッフを雇い、积极的に海外市场を开拓する予定です。

ジェリクル株式会社
2018年8月、増井公祐?代表取缔役颁贰翱が、东京大学大学院工学系研究科の恩师、酒井崇匡教授が开発したテトラゲルの技术を使って设立した。その技术を使用するため、东大の発明と公司の桥渡しをする株式会社东京大学罢尝翱の支援を受ける。また、东京大学协创プラットフォーム开発株式会社の起业支援プログラムに採択され、プログラムが终わった现在も、困ったことがあると相谈できる存在だという。そのほか、东大の产学协创推进本部から公司の绍介を受けるなど、东大のスタートアップ?エコシステムからハンズオン支援を受けている。ベンチャーキャピタル等外部からの资金调达をせず、地道に事业を进めるのがポリシーで、患者により良い蚕翱尝を届けることをミッションとする。今后は医疗分野だけではなく、工业製品への応用も见据え、海外に挑む。
取材日: 2022年11月21日
取材?文/森由美子
撮影/原光平