地球の中身をのぞく 素粒子が拓く新しい地球科学

大地の中で、実际には何が起きているのか--。これまで间接的な観测に基づく仮説でしか语られなかった火山や地球の内侧を、素粒子を使って透视撮影する研究が进んでいます。人类が初めて目にする地球の「レントゲン写真」には、一体何が写っているのでしょうか。
発想の転换が生んだ火山のミュオグラフィ
东京大学地震研究所高エネルギー素粒子地球物理学研究センターの田中宏幸教授が2007年に発表した浅间山の写真は、世界中の科学者を惊かせました。肉眼では见ることのできない活火山の火口底より下の画像だったからです(図1)。この撮影を可能にしたのは、90年代に东京大学で考案された「火山のミュオグラフィ」でした。
ミュオグラフィとは、一次宇宙线が地球大気に衝突することで大量に発生するミュー粒子という素粒子を用いた透视撮影技术です。ミュー粒子は、数办尘の岩盘さえ通り抜ける高い透过力を持っていますが、非常に高密度の物质の中では、ひしめき合う原子核に邪魔をされ、通过できるミュー粒子の个数が减ってしまいます。この性质を利用して、ミュー粒子の飞来した方向と数を検出することで、ちょうどレントゲン写真のように巨大物体内部の密度分布を调べられます。
ミュオグラフィの原理は1950年代から知られ、遗跡调査や资源探査に用いられてきました。しかし、従来のミュオグラフィでは上空から注ぐミュー粒子を捉えるため検出器を対象の真下に设置しており、そのまま火山へ応用することはできませんでした。
1995年に、世界で初めて火山ミュオグラフィを考案したのは、ミュー粒子の応用研究で数々の功绩をあげていた东京大学大学院理学系研究科の永岭谦忠教授でした。永岭教授は、あらゆる方向から飞来する宇宙线のうち、水平に入射するものから生成されるミュー粒子を、山の麓に置いた検出器で捉えれば、火山の横からの透视像が得られると気付いたのです(図2)。当时学生だった田中教授はこのアイデアに兴味を持ち、火山のミュオグラフィに取り组み始めます。
火山のミュオグラフィを実証するまでの10年间
しかし、この画期的なアイデアが実现されるには、21世纪の技术革新を待たなければなりませんでした。最初の课题は、検出器を観测対象に近づけることでした。対象から远いとノイズが増え、透视像を得るのが难しくなります。「90年代に使用していたのは加速器用の素粒子検出器でした。电気も道もない火山に近づけるのは难しかったんです」と田中教授は话します。「そこで、粒子が通过すると写真乾板が感光して飞跡を记録する原子核乾板に目をつけました」。ちょうど、名古屋大学の素粒子実験グループが、原子核乾板の超高速自动読み取り机を开発した顷でした。この研究开発によって、一度の撮影で100万以上のミュー粒子の飞跡を一つ一つ人の目で数えなければならない原子核乾板の使いづらさが一気に解决されます。名古屋大学と组む事で、浅间山観测に原子核乾板が导入できるようになり、2006年ついに世界で初めて、田中教授らは火山のミュオグラフィに成功したのです。
しかし同時に次の課題が現れました。回収?現像?読み取りの作業が必要な原子核乾板は、時々刻々と変化する火山のモニタリングには向きません。火山のダイナミクスの解明には、リアルタイムの観測が役立つはずです。そこで「原子核乾板の次なるフェーズとして、加速器の方式に戻ったのです」と田中教授。成功の鍵となったのは、FPGA(field-programmable gate array)という書き換え可能な集積回路でした。素粒子の入射を電気信号として処理する従来の加速器用検出器と全く同様の動作を、小さいチップ一つで、しかも、少ない消費電力で実行できるのです。田中教授らのグループは、高エネルギー加速器研究機構のグループとともに新たに開発した大容量FPGAでオンライン観測システムを構築し、火山付近に検出器を設置したまま遠隔操作で撮影を続けることを可能にしました。
このシステムを使った2008年の萨摩硫黄岛硫黄岳の観测で、マグマ対流仮説が検証されました。さらに2013年には数日単位でコマ撮りした「动画」撮影にも成功し、硫黄岳のマグマが上下に动く様子が捉えられました。火山ミュオグラフィは、経験则や仮説に多くを頼らざるを得なかった火山学や灾害研究に、新しいアプローチを提供できるようになったのです(図3)。

図4:ニュートリノ観测装置滨肠别颁耻产别
透过力の高いニュートリノは物质との反応频度が非常に低いため、なるべく大きな标的で飞来するニュートリノを待ち受ける必要があります。天然の氷でできた1办尘3もの世界一大きな标的を持つ滨肠别颁耻产别は、数の少ない高エネルギーニュートリノを検出できる强力な観测装置です。
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地球を丸ごと透视する
现在、田中教授は、素粒子の透视技术に関する复数の研究プロジェクトを进めています。その中で最も壮大なのが、南极の氷柱に作られた観测装置滨肠别颁耻产别(アイスキューブ)による地球の透视プロジェクトです(図4)。
地球の透视に使うのは、ミュー粒子より遥かに透过力の高いニュートリノです。ニュートリノはエネルギーによって透过力の强さが変わり、10~100罢别痴(テラエレクトロンボルト)の高エネルギーになると地球中程で吸収されます。希少な高エネルギーニュートリノを数多く検出できる滨肠别颁耻产别なら、ミュオグラフィと同じ原理で地球の透视が可能だと田中教授は考えました。
2008年から始まったこのプロジェクトに参加する保科琴代特任研究员は、ニュートリノを道具として使う発想に、最初は戸惑ったと言います。本来滨肠别颁耻产别は宇宙から飞来する高エネルギーニュートリノを観测し、ブラックホールや银河の核などから放出されていると考えられている超高エネルギー宇宙线の起源を明らかにする目的で建设されたからです(図5)。しかし、すぐにその面白さに惹かれるようになりました。地球は、中心からコア?マントル?地殻の层构造を持つと言われていますが、それは地震波による観测などから间接的に得られたものです。最先端の検出器による人类初の地球透视に、保科研究员は没头しています。
地球の透视像を得るには滨肠别颁耻产别の10年分のデータ量が必要です。现在、最初の3年分のデータが解析されています。「10年后にどんな姿が见えるのか、どうすれば最もコアとマントルの密度差が大きく见えるのか、解析の微调整を繰り返しています」と言う保科研究员は「もっとも、本当にコアがあればですが」と付け加えます。
地球科学の新分野を拓く透视技术
火山ミュオグラフィに始まる、东京大学発の透视技术は、今や海外各地に広がり、地球科学の新分野となりつつあります。この新技术は、今后の科学をどう変えるのでしょうか。田中教授は言います。「一つの革新的技术=新たなサイエンスではなく、复数の革新的技术の束と、そのユーザーコミュニティの拡大が、新たなサイエンスにつながるのです。复数の素粒子を用いた地球観测技术が今后开発され、その利用を通して少しずつ新しい地球科学が创成されていくことを楽しみにしています」。
取材?文:南崎梓 (サイエンスライター)
取材协力

田中宏幸教授
保科琴代特任研究员
リンク
(Muon and Geo-Radiation Physics for Earth Studies)
参考文献
田中 宏幸、 竹内 薫著(东京大学出版会、2014年)