冬眠するブラックホール ~银河衝突がもたらす大质量ブラックホールのエネルギー源の流失~ 研究成果

- 1.発表のポイント:
◆小さな银河が大きな银河に衝突してブラックホール周辺の物质を剥ぎ取ってしまうことで、ブラックホールの活动を停止させる场合もある事を証明しました。
◆本研究はブラックホールと银河の相互の进化解明のマイルストーンとなることが期待されます。
- 2.発表概要:
银河中心ブラックホールは、これまで银河衝突により激しく活动すると信じられてきました。衝突によって银河円盘の物质が中心に落下し、ブラックホールに落ち込むことでその活动にスイッチが入ります。しかし银河衝突が中心で起こった场合、事态は全く异なります。矢が正鵠を射ぬくがごとく、中心に衝突した银河がブラックホール周辺のガスを持ち去ってしまい、エネルギー源を失ったブラックホールは活动を停止し静かに眠りにつくのです(図1、図2)。
本研究が明らかにしたブラックホール活动性の休眠メカニズムは、最近の観测によって见つかった、银河中心ブラックホールの活动が急停止した兆候を示す新种族の天体群との関连もうかがうことができ、天文学最大の谜の一つである、银河の进化に伴う银河中心ブラックホールの形成解明へのマイルストーンとなることが期待されます。

図1.银河衝突がブラックホール周辺のガスを持ち去る様子(想像図)

図2.银河衝突が中心ブラックホール活动に与える影响
- 3.発表内容:
银河中心の大质量ブラックホールは多くの人々の兴味を引き付けてきた魅力的な天体です。 2020年のノーベル物理学赏は私たちが住む天の川银河の中心に大质量ブラックホールが存在することを确信させた観测に対して与えられ、また、2019年にはイベントホライズンテレスコープが楕円银河惭87中心の大质量ブラックホールによる影を撮影したことが発表されました。
银河中心の大质量ブラックホールに十分な量のガスが落下(降着)すれば、ガスの位置エネルギーの解放により、活动银河核(注3)として明るく辉きます。大质量ブラックホールへのガス供给は角运动量(远心力)により妨げられ、トーラス(ドーナツ)状の构造がガスの&濒诲辩耻辞;ため池&谤诲辩耻辞;の役割を担うと考えられています。
このガスの落下によるブラックホール活动の点火机构は、银河の进化过程において频繁に起こる现象である银河衝突だと考えられていますが、活动性を终了させる机构にはいまだ定説がありません。一方で、大质量ブラックホールが明るく辉いている期间は、宇宙年齢138亿年のうちわずか1亿年程度と非常に短いことが知られています。つまり、多くの银河中心ブラックホールはガス欠でエネルギー源の枯渇状态にあり、我々が住む天の川银河中心の大质量ブラックホールも例外ではありません。また、急激に活动性が停止した痕跡を示す银河も近年多数见つかってきており、活动停止机构の特定が待たれていました。
天の川银河中心の大质量ブラックホールと并んで活动性が非常に低いのが、本研究にも密接に関わるアンドロメダ银河中心の大质量ブラックホールです。アンドロメダ银河は银河考古学(注4)における代表的な研究対象の一つで、天の川银河とよく似た性质を持つ姉妹银河であり、さらに、隣の银河でとても近いこともあって详细な観测情报を基にしたたくさんの研究が活発に进められてきました。アンドロメダ银河の周辺には、筋状や贝殻状の恒星分布の巨大な构造があることが分かっています。それらを含む数々の构造は、かつて卫星银河(注5)がアンドロメダ银河の中心领域を突き抜けていった际に破壊された残骸であると考えられており、过去の研究によって卫星银河の大きさや质量、落下轨道などが明らかにされています。つまり、アンドロメダ银河は银河衝突が中心ブラックホール活动を停止できるかどうかを検証する上で最适な実験场なのです。
<研究内容>
三木洋平助教(東京大学)、森正夫准教授(筑波大学)、川口俊宏准教授(尾道市立大学/国立天文台)の研究グループは、银河衝突によって中心ブラックホールへのガス供給源を取り去ってしまうことができれば、やがて中心ブラックホールはガス欠状態に陥り活動停止に追い込まれるため、银河衝突がブラックホール活動の停止機構としても働くという仮説を立てました(図1、図2)。そして東京大学情报基盘センターと筑波大学計算科学研究センターで共同運用されているOakforest-PACSなどのスーパーコンピュータを用いた3次元数値流体シミュレーションや1次元解析的モデルを駆使し、この仮説を検証することで、银河衝突と中心ブラックホールの活動性の関係の解明に挑みました。
研究の第一歩として、银河衝突の痕跡が见つかっており、なおかつ中心ブラックホールの活动性が极めて低いという特徴を併せ持つアンドロメダ银河に注目し、银河衝突による中心ブラックホール周辺のトーラス状ガスの剥ぎ取りが可能であるかを検証しました。この结果、衝突した卫星银河ガスの柱密度(注6)がトーラス状ガスの柱密度よりも高い场合には、卫星银河ガスから运动量が与えられることによって、ほぼ全てのガスが剥ぎ取られることが分かりました(図3)。

図3.トーラスガスの时间进化。上段にはトーラスガスが剥ぎ取られる场合、下段にはトーラスガスが生き残る场合の结果を、虫-锄子午面上における密度分布を用いて示した。卫星银河ガスはシミュレーション开始から110万年间に渡って、図中の左下隅から流入し続ける。左から顺に、ガス流入开始から2万年、46万年、90万年、136万年后のガス密度分布を示した。
さらに、この银河衝突による一連の過程について、アンドロメダ银河以外の他の银河中心ブラックホール活動の停止機構への拡張可能性を検証しました。その結果、多くの银河中心ブラックホール周辺のトーラス状ガスの柱密度は银河衝突によって剥ぎ取り可能な範囲である、つまり银河衝突によって多くの银河中心ブラックホール活動の停止が可能であることを示しました(図4)。加えて、银河衝突による银河中心ブラックホール活動の停止頻度を見積もるために、位置天文観測衛星 Gaia(ガイア、注7)の世界最高精度の観測データに基づく衛星银河の精密軌道計算を実施しました。これにより、银河の中心領域に強い影響を与えられる银河衝突の頻度が 1億年に1 回程度であったと推定されることを示しました。この結果は大質量ブラックホールが明るく輝いている期間は1億年程度であるという事実とよく符合しており、银河衝突と大質量ブラックホール活動の関係性の完全解明に向けての大きな一歩となるものです。

図4.トーラス质量と母银河の関係。现在活动中の中心ブラックホールを持つ银河について、トーラス质量と母银河の恒星质量との関係を调べた。背景の色は银河衝突によってトーラスが剥ぎ取り可能な领域を示している。银河中心核へと落下してきた矮小円盘银河の回転轴とトーラスの回転轴が一致する(なす角度が0度)场合が剥ぎ取り効率最低の场合にあたり、20万太阳质量程度以下のトーラス(黄色の领域)は剥ぎ取り可能である。角度を増やしていくと剥ぎ取り効率が上がっていき、最大で1000万太阳质量程度までのトーラスが剥ぎ取り可能であることが分かる。
<将来の展望>
本研究によって、中心ブラックホールの活动性を活性化するのみと考えられてきた银河衝突が、実は反対に活动性の停止にも寄与することが明らかになりました。中心ブラックホールの运命を左右するのは衝突してくる卫星银河の轨道であり、银河の中心领域に突入する际には活动性を停止、银河の中心を离れて衝突する际には活动を活性化させると考えられます。こうした轨道の重要性は今まで考えられておらず、银河とブラックホールの共进化过程への理解を深める上での重要な视点を提供しました。また、近年の観测によって急激に中心ブラックホールの活动性を停止した兆候を示す天体群が新たに见つかってきており、こうした新天体群の理解にもつながることが期待されます。
今回の研究によって、中心ブラックホールの活動性が银河衝突によりコントロールされることを示しました。しかし、ブラックホール活動をどの程度の期間にわたって停止し続けられるかを明らかにするためには、银河中心領域を充分な精度で取り扱ったうえで银河全体の進化を長時間に渡って計算する超大規模シミュレーションを遂行する必要があります。しかし、このような研究はいまだ未踏領域にあります。今後、東京大学情报基盘センターが導入予定のWisteria/BDEC-01(ウィステリア/ビーデックゼロワン、注8)や筑波大学計算科学研究センター学際共同利用などの最新のスーパーコンピュータを最大限活用した超大規模シミュレーションの遂行によって、银河とブラックホールの共進化過程の解明に向けての探求を続けていきます。
<研究支援>
本研究は、以下の支援を受けて実施されました。
?日本学術振興会 科学研究費補助金(基盤研究(S)20224002、基盤研究(A)21244013、基礎研究(C)17K05389、若手研究20K14517、基盤研究(C)20K04022)
?文部科学省 特別推進研究(16002003)
?筑波大学計算科学研究センター 学際共同利用プログラム(課題名:近傍银河の形成?進化の探求)
?自然科学研究機構 国立天文台 研究交流委員会 助成(20DS-0502)
论文情报
Yohei Miki, Masao Mori, and Toshihiro Kawaguchi, "Destruction of the central black hole gas reservoir through head-on galaxy collisions(邦訳:银河の正面衝突による中心ブラックホールのガス供給源の破壊)," 「Nature Astronomy」: 2021年1月26日, doi:10.1038/s41550-020-01286-9.
論文へのリンク ()
お问い合わせ先
東京大学情报基盘センター
助教 三木 洋平
Tel: 080-9640-7171
E-mail: ymiki@cc.u-tokyo.ac.jp
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