令和元年度 东京大学卒业式 総长告辞


令和元年度 东京大学卒业式 総长告辞
本日ここに学士の学位を取得し、卒業される皆さん、おめでとうございます。晴れてこの日を迎えられたことに、東京大学の教職員を代表して、心よりお祝い申し上げます。本年度は、10学部を合わせ、3,030名の方々が卒業されました。ここに至るまでの長い間、皆さんの学業と研究活动を支えてこられたご家族やご友人の方々のご支援に対して、深い感謝の意をお伝えしたいと思います。
本日も、この安田讲堂において、皆さんやご家族の方々とともに、卒业式を挙行できることを楽しみにしておりました。しかし、すでに报道されておりますように、本年度は新型コロナウィルスの感染拡大を防止するために、このような、いつもとは违う卒业式になりました。形は変わりましたが、様々な场所でライブ配信をご覧の方々とも心を合わせ、皆さんの卒业を祝いたいと思います。
新型コロナウィルス感染症は、またたく间に世界全体に広がり、経済や社会に大きな影响を与えています。その克服はいまだ途上にあり、収束に向けた様々な努力が、日々続いています。国内外で、この感染によって多くの方々が亡くなられました。お亡くなりになった方々のご冥福をお祈りすると共に、ご家族の皆様に谨んでお悔やみを申し上げます。また疗养中の皆様には、一刻も早い快復をお祈り致します。
この感染症の拡散を目の当たりにして、现代の人々の活动や経済社会の仕组みが、いかに国境を越えたものとなっているのかを、皆さんも実感したのではないでしょうか。近年、「自国第一」を唱える主张が目立つようになりましたが、グローバル化はすでに后戻りできないところにまで浸透しているのです。限られた地域の利害にのみ目をむけた行动が、いかに无力であるのか。この感染症への対処の経験は、そのことをはからずも明らかにしたのです。
4年前、2016年4月の入学式において、私が皆さんに「新闻読みますか?」と问いかけたことを覚えているでしょうか。地球温暖化や地域间格差の拡大など、世界规模の课题が深刻化するなか、スマートフォンで気軽にアクセスできる情报だけでなく、海外での报道も含めた、多様な情报源に目を通すことで、自らを相対化する国际的视野を锻えてほしいと思ったからです。その2016年には、イギリスでは、贰鲍离脱を决めた国民投票があり、米国では、おおかたの予想を覆した大统领选挙がありました。これらの出来事は、その后の世界の流れを暗示するものでした。この4年の间に、世界では不安定化や分裂がいっそう进み、最近では、世代间の分断が际だってきていることを私は大変悬念しています。
このように、私たちの目の前には、人类全体が取り组まなければならない课题が差し迫っています。その课题の解决に向けて、互いの违いを认め多様性を尊重し、様々な知恵を出し合って、协働していくことがますます重要になっています。东京大学では、地球と人类の未来をより良いものにするために、知の探究を积み重ねていく人材を、「知のプロフェッショナル」と呼んでいます。皆さんが本日手にされた学位记は、まさにそうした「知のプロフェッショナル」の资格を証明するものなのです。皆さんには、これまで积み重ねてきた努力に夸りをもつと同时に、谦虚さや诚実さを忘れず、社会からの期待に応え、未来への挑戦を続けて欲しいと愿っています。
皆さんがこれから出てゆく社会は、「デジタル革新」とも呼ばれる、大きな変革のまっただ中にあります。この20年の间に、デジタル技术は飞跃的に进歩しました。様々な情报がデジタル化され、サイバー空间の上に、データとして蓄积され続けています。その膨大な情报を解析する技术が、人工知能技术などを駆使することで、急速に発展しています。そして、そのデータを活用するビジネスも次々と生まれ、新たなサービスが社会に速やかに広まっています。私たちは、サイバー空间上の情报を参照しながら、リアルな物理空间で行动するようになっているのです。皆さんも、日々の暮らしのなかで、スマートフォンが手放せなくなってはいないでしょうか? 物理空间とサイバー空间の融合は、予想を超えた规模と速度で进んでいます。そして、人と人の繋がり方や、社会や経済の形をも大きく変えつつあるのです。
サイバー空间とリアルな物理空间の融合は、远隔医疗やテレワーキングの実现のように、私たちの生活の质を向上させるサービスを数多く生みだすでしょう。物理的な距离を超えて人々を繋ぐことは、现代社会が抱える地方と都市の间の格差や、年齢や障がいに関わる格差など、様々な问题の解决に役立つかもしれません。その结果、多様な人々が、それぞれの强みを活かして社会に参加できる、より包摂的な良い社会が実现する可能性が広がります。
皆さんは、厂辞肠颈别迟测5.0という言叶を耳にしたことがあるでしょうか。狩猟社会、农耕社会、工业社会、情报社会に続く、五番目の社会を厂辞肠颈别迟测5.0と呼んでいます。この言叶には、サイバー空间と物理空间の融合のなかで実现される、それぞれの多様な个性を尊重しそれを活用できる新しい社会への期待が込められています。同时に、旧来の形あるモノが価値を担っていた资本集约型社会から、知や情报、そしてそれらを活用したサービスが価値をもつ、知识集约型社会へと転换するのです。2015年に国连は厂顿骋蝉、すなわち持続可能な开発目标を掲げましたが、厂辞肠颈别迟测5.0は厂顿骋蝉が掲げるゴールに通じるものなのです。
重要なことは、このより良い社会である厂辞肠颈别迟测5.0が、自动的?自然発生的には実现しないということです。サイバー空间に流通する情报は、玉石混淆ですし、フェイクニュースも蔓延しています。それを引き金とした、群集行动や炎上现象など、现代的な问题も発生しています。これまで人类が作り上げてきた、社会の基本的仕组みや信頼を揺るがす胁威が切実なものとなっています。サイバー空间は、国境を越えて、谁もがデータを公平公正に活用できる、公共の场でなければなりません。それが、早い者胜ちで秩序なしに占拠され、荒れ果ててしまっては困るのです。地球环境と同じように、人类全体の共有地、すなわちグローバルコモンズとして守り育てていかなければならないのです。
こうした大きな変革のただ中においても、皆さんには东京大学で学んだ「知のプロフェッショナル」として、さらには、知をもとにして新たな事业を起こす「知のアントレプレナー」として、大いに活跃していただきたいと思います。その际、何を指针としたらよいのでしょうか。
今年1月にスイスで行われた、世界経済フォーラム、いわゆるダボス会議の議論は印象的でした。地球環境問題の顕在化は、これまでの拡張主義的な経済成長の限界を示しています。人類社会が、地球環境と調和的で、持続可能な発展を図るためには、「成長」の意味を考え直すことが必要です。そこで強調されていたのが、“No one will be left behind”、どんな人も取り残さない包摂性であり、その包摂性のなかで追求する成長、すなわち「インクルーシブ?グロース」という考え方でした。均一化と効率化を進めたこれまでの経済成長のもとで、「違い」は切り捨てられがちでした。ところが、その「違い」を活かすことが可能であり、それこそが、新たなグローバルな価値創造と成長の源泉になると、考え方の方向性が変わったのです。そこにおいて、個々人の個性の違いや、地域の多様性が新たな意味をもってきます。
インクルーシブ?グロースという新しい成长の形は、今后の地球社会に向けた一つの指针となるものです。その具体例として、东京大学の2つの施设を取り上げ、大学と地域の関係から见えるインクルーシブ?グロースについてお话しします。
飞騨市神冈町の鉱山内に、宇宙线研究所の観测施设のカミオカンデが设置され、现在第二世代のスーパーカミオカンデが稼働しています。そこでのニュートリノ検出の研究が、二つのノーベル赏受赏に结びついたことは、皆さんもよくご存知でしょう。しかし、その最先端の研究が、実は神冈町という地域と深く繋がっていることについては、あまり知られていないかもしれません。
神冈鉱山は、日本初の公害病である、イタイイタイ病の原因となった场所でもあります。かつての神冈町は、公害病の町として知られていました。その顷の患者の皆さんの苦しみは、我々の想像をはるかに超えるものであったはずです。宇宙线研究所の観测施设は、神冈鉱山の硬い岩盘という特长を活かして建设されました。しかし、地域の公害の记忆を忘れてのことではありません。地域の记忆を踏まえ、长い时间をかけて地域との交流を続け、信頼を培ってきたなかで、初めて筑かれたものなのです。
そして、2つのノーベル赏がきっかけとなり、全世界にその名を新たに知られるようになりました。昨年3月には、神冈町内の商业施设に、宇宙や素粒子研究を绍介する展示施设である、ひだ宇宙科学馆カミオカラボが开设されました。1年足らずのうちに、10万人を超える来馆者を集めています。今、神冈町は、「科学の町」、「きれいな水の町」として、自らのローカル?アイデンティティを确立しようとしています。
なぜ、「きれいな水の町」なのでしょうか。カミオカンデやスーパーカミオカンデにある、ニュートリノを検出する巨大タンクは、大量の超纯水で満たされています。超纯水とは、通常の浄水装置では取り除けないわずかな不纯物を、様々な工程を経て取り除いた、极めて纯度の高い水です。神冈地域には、観测に必要な超纯水にすることができる、きれいな水が大量にあったのです。
梶田隆章先生が小柴昌俊先生の研究室の大学院生であったころ、カミオカンデの観测実験は立ち上げ期にありました。神冈坑内のきれいな水は、纯水装置のフィルターを通しただけで、30尘の透过率がありました。それは、ニュートリノに由来する青いかすかな光を、センサーで検出する実験に适していたのです。
しかし、実际にデータをとりはじめると、ノイズがひっきりなしに入ることに梶田先生は悩まされました。ある时、纯水製造装置を止めてみたところ、ノイズはみるみるうちに减りました。タンクには鉱山の地下水を、フィルターを通して注入していました。ノイズの原因は、その地下水に含まれていた、フィルターでは取り除けない放射性物质のラドンだったのです。梶田先生の大学院での研究の最初の数年间は、こうした异物の混入防止や杀菌など、未踏の水準にまで水を纯粋に、きれいにするための地道な作业と工夫に费やされたのです。
さて今年、いよいよ第叁世代の施设である、ハイパーカミオカンデの建设がはじまります。そこでは、さらに大规模な装置によって、ニュートリノ観测の感度をいっそう上げることで、なぜ宇宙では反物质ではなく物质が优势なのかという、大きな谜の解明に挑戦することになっています。现在、地下実験施设への入り口は山の中にありますが、ハイパーカミオカンデは神冈町の中心部に来るために、地元の皆さんと研究者が接する机会もさらに増えると思います。地域の特性を生かした大学の基础研究が、地域の活性化やローカル?アイデンティティの构筑にいっそう贡献していくことを愿っています。
もう一つ、东京大学大気海洋研究所の国际沿岸海洋研究センターの取り组みを绍介したいと思います。これは、1973年に、岩手県大槌町に设置された研究施设です。先の东日本大震灾では、このセンターも壊灭的な被害を受けました。
私も2015年に同センターを访问しました。それは、震灾からの復兴として、新研究実験栋が竣工される前でした。その后も、2017年と2018年に、大槌町で开催された追悼式にも参加し、现地の多くの方々の努力により、着実に復兴が进んでいることを感じました。しかし、まだ道半ばであることも事実ですので、私たちも引き続き、復兴に向けた努力を続けなければなりません。
この研究センターでは、震灾直后から、地震や津波が东北の太平洋沿岸部の海域の生态系に対してどのような影响を及ぼしたのかを、自然科学的に调査しています。この研究に大いに役立ったのが、设立时から40年にわたって蓄积してきた、海洋环境や生物に関する记録データでした。観察データと科学的知见の継続的な蓄积があって初めて、自然灾害の影响を正确に评価することができるのです。ここで强调しておきたいことは、震灾前のデータの多くは、特定の研究のために取得したものではなく、研究のベースとして対象である地域の基础的な记録として地道に蓄积していたものだったということです。
东京大学の国际沿岸海洋研究センターは、海洋の基础研究の国际的な拠点として、多くの研究者に利用されてきました。その一方で、周辺の地域住民に必ずしも亲しまれてはおらず、必要とされる施设でもありませんでした。震灾后の研究も、巨大な自然撹乱の结果を科学的に解明するという、纯粋に科学的な海洋学の研究として动き始めました。ところが、始めてみると、水产业の復兴など、地域住民の生活に直接资する知见を提供することも求められたのです。震灾をきっかけに、地域への関与の重要性が认识された、重要な転换点でした。
センターの叁陆地域研究は现在、地域の多様性を自然科学的にも社会科学的にも重视する、ユニークな新しい研究领域を开拓しつつあります。
たとえば、骋笔厂を搭载した海上ブイを使うと、波の高さや向きを精密に测定することができます。震灾后に、この波浪计测の骋笔厂センサーを使って叁陆沿岸の様々な湾の波が详细に计测されました。その结果、湾の形状と海流の向きによって、波の特徴が大きく异なることがわかってきました。同じ太平洋に面していても、リアス式海岸に点在する小さな湾や浦では、その形状の微妙な违いによって特异な生态系が形成されており、収穫される海产物やその利用の仕方もそれぞれに少しずつ异なっていることが知られていました。こうした地域ごとの食文化や风习の多様性が、実は自然环境の多様性と関係して生まれていたことが见えてきたのです。
海洋科学研究が地域の多様な文化の理解と繋がるということは、理系の研究と文系の研究を繋ぐきっかけも生み出しました。昨年から开始された「海と希望の学校」プロジェクトは、その一つです。そこでは、地元の海に関する知识を、小中学生や高校生を含む地域の方々に伝え、共に学ぶ活动を行っています。
このプロジェクトには、东京大学の社会科学研究所も深く関わっています。社会科学研究所は震灾前から、「希望の社会科学」と「危机対応学」の研究を独自に进めてきました。
「希望」は、それぞれの人にとっての望ましい未来です。それゆえ、个人や地域によって异なるものとなるでしょう。だからこそ、望ましい未来を共有するためには、个人や地域の多様性を理解し、互いに受けとめることが大変重要です。「海と希望の学校」の活动は、海洋の基础研究の成果をベースにしながら、この地域に特有の自然环境やそこで育まれてきた独自の文化について、地域の方々と一绪に考える机会となっています。
「危机対応学」の调査研究からも、社会における多様性の重要性が浮かび上がっています。当初の想定を超えた大规模な自然灾害に直面したときに、即座に适切に対応することは、たやすいことではありません。そのような力を醸成するには、他者への寛容、未知への好奇心、异なる主体との积极的交流が必要です。それには、多様性を许容する社会が広く実现していなければならないのです。
地域に暮らす人々が地元の海の多様性と豊かさについて理解を深める。これは、地域のローカル?アイデンティティを确立するだけでなく、将来の自然灾害への备えにも繋がるのです。
さて、宇宙线研究所と神冈地域との関係、大気海洋研究所と叁陆沿岸地域との関係をお话ししてきました。そこから见えてくるのは、大学での研究教育は地域社会の発展と无縁ではないということです。
そこには、希望を养い希望を育てる场としての大学の役割や、地域を耕しその発展の原动力となる大学の可能性が见えています。大学の教育や研究を通して、地域にとって大切なものは何かを考え、またそれを実现するための道筋について考え、それを地域と共有することこそが、希望と未来の创出に繋がるのです。
皆さんはこれから、国内であれ海外であれ、自分が生まれ育った场所とは违った地域で、様々な経験をされるはずです。その时に、违いを恐れて违いを排除するのではなく、违いのもつ意味をポジティブに捉えて、それを楽しむ姿势をもってほしいと思います。
そして、大学は社会とも深く繋がっています。皆さんには、卒业后も东京大学との繋がりを保ち、多様な人材との知识交流の场として利用していただきたいと思います。卒业は、大学との関係の终わりを意味しているわけではありません。东京大学もまた、皆さんと一绪にインクルーシブ?グロースに向けた社会変革を駆动する力になりたいと愿っています。
最后に、ここに卒业の日を迎えられた皆さんが、大きな変革の时代におけるより良い社会の担い手として、健康で幸せな、希望に満ちた未来を筑かれることを心より祈念して、お祝いの言叶とします。本日は诚におめでとうございます。
令和2年3月24日
東京大学総長 五神 真
- カテゴリナビ